【06 車のセッティング(後編) - タミヤRCスタートガイド -】
車のセッティング(後編)
コーナーの多いテクニカルなコースや直線が多い高速コースなど、サーキットの性格は様々です。そうしたサーキットに合わせて車を仕上げるのがセッティング。豊富に揃ったスペアパーツやオプションパーツを組み込むことで車の操縦特性を大きく変えることができます。
8.ホイール・アライメント
路面に対して車輪がどのような状態で取付けられているかを表わすのがホイール・アライメントです。代表的なものとしてはトー角、キャスター角、キャンバー角といった項目があり、これらのセッティングもステアリング特性に影響します。
トー角
トー角は、シャーシを上からみた時に左右の車輪がシャーシの中心線からみて前すぼまり(トーイン)か後ろすぼまり(トーアウト)かを角度であらわしたものです。
フロントのトーインを強めると直進安定性が高まる一方でアンダーステア傾向に、トーアウトではコーナリング開始時からイン側のタイヤがより深く切れ込んだ状態になるので反応が向上する一方、直進安定性が低下する傾向にあります。また、リアのトー角はコーナリング時の挙動に影響しており、トー角を弱めるとオーバーステア傾向、強 めるとアンダーステア傾向になります。トー角の調整は、フロントの場合はステアリングロッドの長さ調整で行うのが一般的で、細かくセッティングを行うには、ターンバックル式シャフトへ換装するのがおすすめです(シャーシによっては標準装備されている場合もあります)。リアの場合はトーインリアアップライトへの換装で行うのが一般的。なお、フロント・リアにかかわらず、極端なトー角がついた状態では走行時にタイヤにかかる抵抗が増えてタイヤが極端に磨耗したり、走行安定性が損なわれたりといった症状が発生するので、通常はフロント-1度〜+1度、リアなら0度〜+3度程度の範囲で調整するのが一般的です。
キャスター角
前輪を支えるキングピンが後ろにどの程度傾むいているかの角度をキャスター角といいます。この角度が大きくなるとマシンの直進性が高まりますが、ステアリングを切った際のマシンの反応は穏やかになります。また、キャスター角が極端に大きくなるとタイヤの内側が片減りしたり、グリップ力が低下するといった悪影響がでてきます。また、キャスター角は車体の前後で車高が異なる場合には、それに応じて変化するので注意が必要です。
キャンバー角&キャンバー角の変化量
シャーシを前後から見た時のタイヤの左右方向への傾き角をキャンバー角と呼びます。タイヤがハの字ならネガガティブキャンバー、逆ハの字ならポジティブキャンバーです。
RCカーで一般的なダブルウィッ シュボーンタイプのサスペンションでは、キャンバー角はアッパーアームの長さで調整します。アッパーアームを短くすると、車両を進行方向から見たときにタイヤはハの字(ネガティブキャンバー)になり、コーナリング時のグリップ力が高まりますが、角度をつけすぎると直進安定性が低下するので、通常は0.5〜1.5度前後で調整するのが一般的です。なお、一般的なマシンではアッパーアームがロアアームよりも短くなっており、サスペンションが縮むとキャンバー角が強まります。シャーシによってはこの変化量を調整するためにシャーシ側のアッパーアームのマウント部に複数の取り付け穴が用意されており、これを利用してアッパーアーム長を変えることで、コーナリング時の特性を味付けできます。アッパーアームを標準よりも短くするとサスペンションが動いたときのキャンバー角の変動が大きくなり、コーナリング時の挙動はクイックに。逆にアッパーアームが長くなると、キャンバー角の変化が抑えられて安定志向になります。また、アッパーアームマウントの高さをスペーサーで調整することでも同様の効果が得られるようになっており、高い位置にするとサスペンションが動くときのキャンバー角の変動が多く、低い位置にするとキャンバー角の変化が少なくなります。
- アッパーアーム長の調整に用いる取り付け穴 TA05ver2では4箇所の取り付け穴が用意されています。
- OP.861 ツーリングカー キャンバーゲージ (ITEM 53861)
キャンバー角をひと目で確認できる専用ゲージ。
9.ホイールベースとトレッド
ホイールベースは前後の車輪の間隔、トレッドは左右の車輪の間隔です。トレッドが同じ場合、ホイールベースが長い方が直進性がよく(曲がりにくく)なります。逆に同じホイールベースなら、トレッドが広い方がシャープなコーナリングが可能になります。一部のツーリングカーなどでは、サスシャフト部分のスペーサーの組み替えや、パーツの組替え(Mシャーシなど)で長さを調整できるようになっており、使用ボディに合わせて車体の長さ調整できるほか、車両の走行特性を変化させることができます。トレッドを広げるには幅の広いホイールハブやスペーサーを使用したり、オフセット量の違うホイールを用いるといった方法がありますが、極端にワイドなトレッドにするとサスペンションが沈んだときにボディと接触してしまったり、レース規則の車幅制限に抵触してしまう場合があるので注意が必要です。
- SP.1263 5本ツインスポークホイール(黒)4本(26mm/+4)
キット標準のホイールがオフセット+2の場合にオフセット+4のホイールに換装すると、トレッドは右2mm+左2mmの合計4mm広がります。なお、ツーリングカーのタイヤ幅はミディアムナローとナローの2種類があるため、購入時にはオフセット値だけでなくタイヤ幅にも注意しましょう。
サスマウントでのトー角/トレッド変更
TA07 などの一部のツーリングカーでは、「サスマウント」と呼ばれるパーツを換装したり設置方向を変えることでもトー角やトレッドを変更できます。サスマウントはシャーシにサスアームを固定するためのパーツで、前後のサスマウントの幅に差をつければトー角を変更でき、前後とも長く、または短くすることでトレッド(車幅)を変更できます。サスマウントでトレッドを変更した場合はサスアームを固定している左右のサスシャフトの間隔が変化しますが、間隔が狭くなる(幅の狭いサスマウントを使う)と車体がロールしやすくなり、広くなる(幅の広いサスマウントを使う)とロールしにくくなります。また、サスマウン トには高さが異なるタイプや高さ調整用のスペーサーも用意されており、サスシャフトの取り付け位置が高くなると車体がロールしにくくなり、低くなるとロールしやすくなります。こうした特性を意識してサスマウントを選択することで、トレッドを一定に保ったままで、車体のロール量をコントロールすることが可能です。
10.サスペンション
実車では乗心地を良くするのもサスペンションの働きですが、RCカーの場合は路面の凹凸による振動を吸収してタイヤを接地させ、そのグリップ力を最大限に引き出すのが重要な働きです。サスペンションがなかったり固すぎる場合には路面の小さな凸凹で車が跳ねてしまい、タイヤが路面から離れてグリップ力を発揮できません。一方、柔らかすぎるとショックを受けたときにスプリングが縮みきってしまい、やはりサスペンションがないのと同じような結果になります。
また、サスペンションにかかる力はコーナリング速度によって変化するので、低速コーナー、高速コーナー、ストレートなど、どのセクションを重視してセッティングするかも重要です。
コースとマシンの特性を見極め、もっともタイムを刻めるセッティングを見出す。そんなモータースポーツならではの楽しみがたっぷり詰まっているのがサスセッティングなのです。
サスペンションの種類
RCカーでよく使われるのがダブルウィッシュボーンタイプの四輪独立サスペンションです。ダブルウィッシュボーンタイプは4本のタイヤが別々に上下できる構造となっており、接地性に優れるほか、幅広い調整項目を持っているのが特長です。構造としては、車輪が上下に動くようにフレームとつながるアーム、アームを支えるスプリング、そしてダンパーで構成されています。また、一部のマシンでは実車のレーシングマシンと基本的に同じ機構を持ち、空力的にも優れた特性をもつプッシュロッドタイプのインボードサスペンションが採用されています。このタイプのサスペンションアームは上下ともAアームで構成され、ロワアームの動きはプッシュロッドからL字型のロッカーアームと呼ばれるパーツに伝わり、ロッカーアームがダンパーユニットを伸縮させます。
- ダブルウィッシュボーンサスペンション(DF-03Raシャーシ)
- インボード・フロント・サスペンション(TA05-IFSシャーシ)
スプリングの強さを決める
サスペンションを装備したRCカーでは、マシンの車重はコイルスプリングで支えられています。そのため、スプリングの固さは車の重さに合わせて選択します。説明図どおりに組み立てた状態では車重とスプリングのバランスはとれていますが、ポイントになるのは「マシンの重さは一定ではない」という点です。車体を軽量化すればそれにあわせてスプリングを弱くする必要がありますし、バッテリーもタイプによって重量が異なります。その一方で、モーター交換等でマシンの速度が上がればコーナリング時にかかる荷重も増すので、標準スプリングではコーナーでアウト側のスプリングが縮みきってしまう(イン側が伸びきってしまう)場合も出てきます。このような場合には荷重に負けない固いスプリングを選ぶ必要がありますが、固すぎると路面からのショックを吸収できなくなってしまうので見極めが重要です。なお、スプリングの固さは前後同じがベストとは限りません。前後でスプリングの固さを変えることでも走行特性は変化しますから、オプションパーツのスプリングセットを利用して、挙動の変化を確かめてみるとよいでしょう。
ダンパーの取り付け角度≒スプリングの固さ
RCカーの中には、ダンパーの取り付け角度を調整できるタイプもあります。この角度を変えるとスプリングにかかる力が増減するため、結果的にスプリングの交換と同じ効果があります。基本的にはダンパーの取り付け角度を寝かせると柔らかくなり、立てると固くなりますが、その変化はスプリング交換よりもおだやかなので、微調整に活用すると良いでしょう。なお、インボード・フロント・サスペンション(IFS)タイプでは、ロッカーアームに装着するスペーサーの厚みを変えることで同じ効果を得ることができます。
- DB01シャーシ フロントダンパー
マウント取り付け位置を選ぶことでダンパー角度を調整できます。
ダンパーはスプリングに合わせて
コイルスプリングは路面からの衝撃を受けると伸び縮みを何回もくり返すので、スプリングだけでは車体が安定しません。そこで、伸び縮みを早くおさめるのに用いられるのがダンパーです。
オイルダンパー
RCカーでよく使われているのがオイルダンパーです。ダンパーのシリンダーの中にはオイルが入っており、オイルの中をピストンが上下することでスプリングの伸縮をおさめます。ピストンには小さな穴があけられています(無穴のタイプもあります)が、穴の数が多く、穴の直径が大きいほど抵抗がすくなくピストンがスムーズに上下するのでダンパーの効きとしてはソフトになります。ダンパーがソフトになると路面への追従性が高まりますが、振動を抑える力は弱まります。この点をふまえ、グリップが良くフラットな路面では固めに、そうでない路面の場合には柔らかめにセッティングするというのが基本的な考え方といえるでしょう。
- TRFスペシャルダンパー(ハードブラックコート)4本(ITEM 42102)
- ピストンパーツの穴数例(左から3-1-2)
ダンパーオイル
ダンパーの効きはピストンの穴だけでなくオイル自体でも調整が可能で、オプションパーツとしてミディアム・ハード・ソフトなど、粘度(ねばり気)の異なるものが各種用意されています。オイルダンパーのセッティング時には、大きな調整はピストンの穴の有無や穴の数で行い、細かな調整はオイルの粘度で行うとよいでしょう。なお、オイルは粘度が低い(ソフトな)ものほどピストンが動きやすくなります。また、オイルの粘度は気温によっても変わるので、気温が低い場合には柔らかめ、高い場合には固めのオイルを選ぶことで、一定のコンディションを保つことができます。
ダンパーが決めるもうひとつの要素「車高」
ダンパーユニットでは、車両の特性を左右する重要な要素である車高の調整も行えます。車高とは路面からシャーシ底面までの高さの値で、RCカーの車高をチェックする際は、マシンにバッテリー等の走行時に搭載するものをすべて搭載して平らな場所に置き、サスペンションを数回上下させてなじませてから チェックします。確認は定規等でも行えますが、より正確なセッティングのためにはハイトゲージやハイト&ドループゲージといった専用アイテムを活用するのがお すすめです。基本的に、マシンの車高が下がると重心も下がるため、車高を下げたほうが走行時の安定性が高まります。しかし、車高が低すぎるとブレーキング時やコーナリング時に車体がロールした場合にシャーシ底面が路面に当たって急激にグリップを失うといったリスクも高まりますから、路面の滑らかさやスプリングの固さ、車速等を考慮しながら底付きしない高さを見極める必要があります。車高の調整はダンパーとスプリングの間に挟んだスペーサーの量を加減したり、シリンダーナットの位置を変えて行うのが一般的で、ある程度の量までは(右図参照)スプリングの固さを一定に保ったままで車高を調整できます。なお、スプリングの固さを変えるとその固さに応じて沈み込む量が変わるため、結果的に車高も変化しますから、この点にも注意が必要です。
リバウンドストロークの調整
TA05などのシャーシでは「リバウンドストローク」を調整できる機構を備えています。リバウンドストロークとは静止状態でサスペンションがどの程度沈んでいるかを示す量のことで、測定する際は平らな場所に置いた車体を徐々に持ち上げて、路面からタイヤが離れないギリギリの高さの車高を測定。この値から通常時の車高を引いた値がリバウンドストロークになります。リバウンドストロークが多いとサスペンションがよく動くようになるため、グリップが低い路面では走行時の安定性が高まります。一方で車体の姿勢変化が大きくなるので、ハイグリップな路面でのハイスピード走行時には、コーナリング中にグリップを失うことがあります。また、リバウンド ストロークも車高と同様に前後別個に調整することで細かな味付けが可能になっており、フロントを多めにすればオーバーステア傾向、少なめにすれば応答性はよくなるもののアンダーステア傾向になります。また、リアのストロークを多めにすると走行安定性が高まる傾向にあります。
- リバウンドストロークの調整(TA05verU・リア)
ストローク量は条件にもよりますが、3mmから±2mm程度での調整が一般的です。
スタビライザー
コーナリング速度が上がってくると、車体は外側に大きく傾く(ロールする)ようになり、時にはイン側(内側)のホイールが路面から浮き上ったり(インリフト)して不安定になります。そこでロール量を抑え、ハンドリングをシャープにするのに用いるのがスタビライザーです。スプリングの交換がロールの量と加速・減速時等に発生する前後方向のゆれ(ピッチング)の量の両方に影響するのに対し、スタビライザーはロール量のみを制限できますから、コーナリング時の挙動を調整したい場合に役立ちます。
サスセッティングを理解するには実践が一番!
RCカーのサスセッティングの目安として古くから言われているのが、車を静かにおいた時にスプリングが少し縮み、車をおさえつけて手を離したときにはジワッと戻る程度にする…というもの。ただし、これはあくまで静止しているときの目安。走行中のマ シンは加速・減速・コーナリングなどの各シチュエーションで様々な力をうけて絶え間なく傾く方向や角度が変わりますから、全てのコーナーにベストフィットするセッティングというのは、かつてのF1マシンのように、走行中にリ アルタイムでサスペンションセッティングを変えでもしないかぎりありえません。
そんなサスペンションセッティングを体得するには理論よりもまず実践。実際にサーキットで少しずつセッティングを変えてみて、「低速コーナーの入り口ではこう変わった。出口ではこう変わった。高速コーナーでは、直線では…」というセクションごとの変化を感じ取りながら一番気持ちよく走れるセッティングを探っていけば、机上で理論を理解するよりも速く上達できるでしょう。
- ウイリアムズ FW14B ルノー(1/12 スケールモデル)
1992年にグランプリタイトルを獲得したF1マシン。サーキットの各セクションに合わせてサスペンションのセッティングが変化するアクティブ・サスを導入したマシンとして知られています。